Fete麻雀
士郎が居間を訪れたとき、既に闘いは始まっていた。
「明日は、シロウは私と出かけると云っていましたが?」
当然のように主張するセイバーに対して、不満そうに藤ねえが反駁する。
「えー!明日は私と出かけるって…」
この話を聞いた時点で痛感した。迂闊だった。士郎は深く後悔する。
いま思えば月の初め、カレンダーをめくるのをすっかりを忘れていたことに起因する、
スケジュールのブッキングが原因と推察される。
小さな失敗が事を大きくする衛宮家(いや、藤ねえが大きくする)と言うことは判っていたのに。重ね重ね迂闊だ。
「どういう事?士郎」
藤ねえの詰問が士郎を打つ。
「いや、それは…」
言いよどむ士郎の答えを待たず、セイバーは云う。
「シロウは明日は私と出かけるのです」
言い切ったセイバーに軽く睨みをきかせる藤ねえ。
それを機に眼前で小競り合いが始まった。
しかし、埒が開かない。
それに気づいたのか、藤ねえが、
「勝負よ!」
「勝負?」
嫌な予感がした。こういう予感は良く当たる。昔からそうだ。
「こういう事は勝負で白黒つけた方がいいのよ!」
「そして賞品は『明日一日士郎を自由に出来る権』でね!」
声高らかに藤ねえが宣言する。
その声に反応する一つの存在。
「面白いわね」
状況を静観していた凛が動いた。
「私も参加して良いかしら?」
すっくと立ち上がり、すでに口論していた二人と目線を合わせる。
明らかに宣戦布告といった様相だ。
「私も参加します」
凛のあとを追うように桜も動く。
ああ、また話がややこしくなったと士郎は思う。
ここの家には俺の人権を尊重してくれる人間は居ないらしい。
メンツが揃った時点で状況を確認するように凛が尋ねる。
「で、どう決着をつけるのかしら?剣で勝負…は不公平よね?」
待ってましたと云わんばかりに藤ねえは、
「麻雀で勝負よ!」
と言い放つ。
「は?」
四人は声を揃えて、頭上に疑問符を設けた。
「こう言うときは麻雀で勝負するってのが日本の習いなのよ!」
その認識は間違っているぞと心の中でツッこんだが、藤ねえの勢いは止まらない。
いやでも待てよ?なんかよく藤ねえの家から麻雀の音が聞こえてたような…?ま、気のせいか。
藤ねえの言葉を受け、セイバーが士郎にささやく。
(そうなんですか?シロウ。)
(まーた、変な麻雀漫画でも読んだんだろう。トーキョーゲームとか…)
(そもそも麻雀とはどういう…)
「セイバーちゃんは麻雀知らないだろうから教えてあげるけど…」
すげえ!スゲエよ藤ねえ!もう決定かよ!
相手が知らない方法で勝負するというのはどうかと思うぞ!と士郎は思ったが、
もう既に藤ねえはルールをセイバーに教え始めている。
凛は何も言わずに微笑みをたたえている。
何か手でもあるのだろうか。
セイバーにルールの説明をしている間、土蔵の中から麻雀牌を持ち出して準備を進めた。
埃まみれのケースに収められていた牌は使い込まれている印象を受けたが、至って普通の麻雀牌だ。
そそくさと準備する士郎を見つめながら、凛は作戦会議。
背後に居る彼女のサーヴァントに声をかける。
(アーチャー。いい?貴方の力借りるわよ)
(やれやれ、こんなくだらない事に英霊を巻き込むとは…)
些かアーチャーは乗り気ではない。
それもそうだろう。
どう見ても男を取り合うこの私闘で、凛は英霊まで巻き添えにしようとするだから。
メンツは藤ねえ、セイバー、凛、桜。
士郎は見届け人という立場のようだ。
配牌を終えゲームはすでに始まっている。
そして凛が最初のツモを行うその時――――。
凛の眼の前でツモ山が崩れた。
アーチャーの精緻な手さばきの協力もあって、凛がツモ山を崩すことはありえない。
だが、”崩された”のなら話は別だ。
士郎には解るが、この闘いに英霊を持ち出した凛はある意味ルール違反だ。
だから目には目、というわけではないが、士郎は藤ねえの行為を黙認していた。
しかしその手法のあざやかさに眼を奪われたことも否定しない。
それほどまでに藤ねえのイカサマはエレガントだったのだ。
「チョンボ…ね」
何故か点棒を手にし目を伏せ、心底嬉しそうな笑みで言い放つ。
(哭きの竜かッ!)
判りやすいなあ、藤ねえと思いつつも静観する士郎。
心の中では(キッタネー!キッタネー藤ねえ!)と罵倒していたが。
「甘いわね。勝負はとっくに始まっているのよ!」
士郎に目をやり、その心を見透かしていたように宣言した。
凛は戸惑う。
「あり得ないわ…。私が山を崩すなんて…」
しかしアーチャーは気づいたようだ。その牌は崩された、と言うことに。
『あの女、なかなか、やる』
アーチャーは一人ごちる。そして、その眼は既に本気の眼だ。
(相手はもうその気のようだ。凛、こちらも本気で行くぞ。)
その言葉を聞いて凛は落ち着きを取り戻す。
(そう来なくっちゃね…。)
ここまでは予想通りの展開、とでもいわんかのように凛は微笑む。
そうなのだ。
きっかけが必要だった。アーチャーの力を借りる、きっかけが。
アーチャーの本気を引き出すことで勝利する。それははじめから考えていたこと。
凛は気づいていた、夢に見た、荒野に立つ無限ともいえる剣。
あれは彼の力。
その力を以てすれば――――。
天和も不可能ではない。いや、もはや当然の事象となりえる。
そう、投影の能力を以てすれば麻雀など思うがまま…!
改めて配牌を終え、数巡。
「ロン!」
藤ねえの嬉々とした声が居間に響く。
セイバーから放たれた牌を、待ちかねたかのように、役名を嬉しそうに羅列する。
そんな彼女に問いかけられた言葉。
「本当に?」
セイバーだった。
「本当にって…」
訝しげに藤ねえが捨て牌に目をやると、先ほどまでイーピンだったそれは、よく見ればリャンピンだった。
その場にいたすべての者が驚愕した。先ほどまでそれは確かにイーピンだったのだ。
驚きに包まれた場にあって、士郎だけが現状を把握していた。
風王結界である。
風の力により光の屈折率を変え、剣を隠す事が出来るなら、別の牌に見せることも可能な道理。
剣の姿を隠すその能力をここで使うとは!
「士郎、これはチョンボというものですか?」
「セイバー。なんかキャラ違うぞ」士郎が突っ込む。
「シロウ。どのような理由があれ、これは闘いです。負けるわけにはいきません」
言い切った!セイバーは本気だ!別の意味で怖い。
セイバーからは当たることはできない。これは共通認識として場を支配した。
何処かしら躊躇の色を隠せない三人を前にして、優雅に牌を打つセイバー。
「リーチ」
澄んだ声が居間に響く。セイバーである。
誰もが気づいたのだろう。
ヤバイと。当たると。一発だと。
一巡。
セイバーが牌を引く。
セイバーが厳かにささやく。
士郎には聞こえた。幾度か耳にしたその言葉。
「約束された勝利の剣――――」
一発。
「シロウ。点数計算を」
セイバーがトップ。
そして時は過ぎ。
その場を支配していた者は誰だったのか。
藤ねえの強運とイカサマ。セイバーの風王結界と約束された勝利の剣(ミニ)。
アーチャーの投影。拮抗するその力の間で、特に注意も払われなかったダークホース。
特殊能力を持っている三人のなかで、ただ淡々と牌を打つ女。
桜である。
いつの間にか桜がトップだった。
士郎も驚いていた。
桜は単純にその麻雀の技能だけで勝っている。
明らかに桜にはガンパイができる。
使い込まれた麻雀牌では容易なことだろう。
彼女がここまで健闘しているのは純粋に麻雀が強いから、だ。
凛が唇をかむ。
(桜がここまでやるなんて…)
凛が勝利するためには天和しかありえない。そこまで差がついていた。
天和に至るまでの手段があることは判っていた。
しかしそれを成さしめるには力が足りない。奇跡という力が。
だが彼女の令呪にはその力がある。
「あとは、頼むわよアーチャー」
覚悟は決めた。
残る令呪は一つ。ここで使うのは聖杯戦争のさなかにある今は得策ではない。
むしろ自殺行為だ。
しかし――――、だがしかし―――!
彼女の右手が熱を帯びる。
令 呪 発 動――――!
(アーチャー、すべての牌を)
(わかっている)
最後の令呪を使った凛の身体が崩れ落ちる。その身体を支えるアーチャー。
闘いはアーチャーが引き継ぎ、聖杯戦争の事も忘れ、勝利へと邁進する。
それは燕返しというレベルではなかった。
場のすべての牌を、見えざる速さで回収し、投影し、その場に成さしめる。
究極の手法。
無限剣製―――。
決まった。
大河のイカサマもすべて阻んだ。
桜の牌も、クズ牌しか山にはない。
セイバーは何も手が出せないまま事は終わる。
アーチャーにとって、眼前に広がるのは勝利の丘に見えたことだろう。
決着――――。
勝負も終わり、他の皆は凛が勝ったと思っている。
土蔵に麻雀牌を片づけ終え、家に戻ろうとすると庭にアーチャーが居た。
士郎は尋ねる。
「結局、勝者は凛か」
「いや、最後まで闘いの場にいたのは俺だ。明日の権利は俺が貰う」
その言葉を聞き、
(アーチャーが明日俺を自由にするなら大丈夫だな)
と、士郎は安堵する。
一抹の不安は覚えたが、凛に振り回されるよりはマシだろう。
家に戻ろうとする士郎。
その背を見つめるアーチャー。
まだ、士郎は本当の脅威に気づいていない――――。
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士郎の嫌な予感はやっぱり当たったってことで。
設定もクソもないですが。令呪が無くなったからダメよとか考えちゃいけません。勢いです。
燕返しというワードが出た時点で小次郎出したかったんですが、無理でした。
きっと前左右から牌とって来るんですよ。これだけでも最強ですね。
ゲイ・ボルグは狙った相手から必ずロン出来るって能力で。
で、誰を応援したいのか全く判らない内容となりましたが、自分はアーチャーと凛に入れました。応援ヨロシク。