アニメ化に際し失われるもの。

小説やエロゲの利点は「表現時間の制約が無い」ことだ。表現時間は(作り手が書き続けられる限り)無限である。
しかしアニメにはテレビ放送枠などを含む様々なファクタによる「表現時間の制約」が掛けられ、表現時間は有限となる。
つい最近自分が触れた「うたわれるもの」を例に取れば、ゲーム版に関しては、25時間ほどはプレイしたことになるだろうか。
そして、アニメ版は各話24分×全26話=計624分(約10時間半)に全てを収めなければいけないことになる。


ゲームのシミュレーションパートを2割占めると概算しても、20時間はアドベンチャーパート、すなわち物語を語る部分なのだ。
つまり、原作では20時間ある物語をアニメーションで表現できる時間はおよそ半分の10時間となる。
(アニメの進行度合いは一定だが、ゲームの進行度合は個人差があるのであくまで目安で。)


つまり、原作のある作品のアニメ化というものは、無限を有限に収束させる行為に等しい。
そして、無限を有限に収束させる際には必ず失われるものがある。

うしなわれるもの

ではその失われるものとは何か。
作品のアイデンティティを保つための情報や、その作品の「面白さ」を担う情報である。


原作付きのアニメを見たときに「これは違う」とか「此処が足りない」などの違和感を感じたりすることはないだろうか。
原作からアニメに移行する際に、「削除された情報」について、「削除されたことを許容できるか」の差違よる違和感であると考える。


また、そもそも原作自体が膨大な情報量を有していた場合、削れば削ったで面白さが失われ、作品を作品たらしめるアイデンティティ情報のみになってゆくのだろうと思われる。また、作品世界を説明し切れていない場合、面白いシーンを再現しても、最大限の効果は得られない。


多くの人が原作で「面白い」思った部分を如何に残し、「削っても良い」と認識しているところを削るか、それがアニメ化の成功の鍵なのではないだろうか。


その点、テレビ版「うたわれるもの」は(7話まで見た印象だが)大変丁寧に原作を扱っていると思う。
1話を見た時点では出てこなかったが、後に畑作りの話や難民の話も出てきた。
これはハクオロの過去と関連づけるのに重要なファクタであるため、外せない表現であったと考えている。
これを原作ほどの情報量とは言えないまでも、盛り込んできたことは評価に値する。


逆に、あまりに丁寧すぎて「尺が足りなくなるのでは」と思うぐらいだったが、7話で「皇都侵攻」終了はまずまずのペースだと感じた。
これはアニメ化に際して削除すべき情報を的確に取捨選択して話を進めても大丈夫な情報の出し方をしているからだろう。
これで、物語の起点となる、ハクオロが村の一員になるということ、トゥスクルの死、そして国興しまでを丁寧に扱うことで今後の地盤作りは既にできたのではと考える。
今後はうたわれるものアイデンティティを成す情報は充分な情報量は与えられただろうし、あとはクンネカムンに関する情報などは個別に出すべき時に出してくれればいい。
あとは終盤の流れをどう上手に、違和感なく織り込むか…が重要になるだろう。
ここまで丁寧に「わかって」やっているのなら、「どこを削るべきか」「どう表現すべきか」もわかっているだろうと期待する。

蛇足 一本道シナリオと複数分岐シナリオ

そもそも一本道シナリオでなければエロゲのアニメ化は極めて難しい話なのだろうと思う。
フォークのように、共通シナリオから分岐するシナリオを、一つの話に統合し、尺に収め、かつ面白くする。
聞いただけでも至難の業であることが御理解いただけると思う。
できたとしても、それはパラレルワールドを許容されたゲーム側のシナリオとは、既に別の物語となるだろう。


如何に削除し、削除した情報を補う追加を行い、再構成し、それを原作の名前で世に出さなければならない。


自分は原作付きの作品がアニメ化されるとき、「如何に原作のテイストが失われていないか」を重視する、原作至上主義者である。
(原作を未読の場合は、あまり気にしないという半端者でもあるのだが)

だから、原作付きのアニメ化についてはあまり期待しないことの方が多い。
そもそも再現など困難であるのだからという諦観が前提にあるというのが理由なのだが、それでもいくつか期待してしまうものは多い。
星空めておライアーソフト作品「CANONBALL」、他メーカで最近では「PRINCESS WALTZ」はアニメ化し易い部類に入るだろう。
(何処かPRINCESS WALTZをアニメ化しませんかね。個人的にはProduction I.GBones京都アニメーションで。GONZOは勘弁。
でもI.Gだとリアル系な絵柄が多いから難しいかなー。)


そういう意味では「Fate/stay night」のアニメ化は自分の定義に拠ればとても困難を極めると思う。
(アニメ版Fateはたまにしか見ていないので何とも言えないのだが)
原作の表現量自体が膨大で、またシナリオは大まかに3シナリオ。これを26話に収める。
もはや「Fate/stay night」ではない別のものとして成功する可能性はあるが、それはFate/stay nightなのだろうか?
しかし、第一部:Fate/stay night、第二部:Unlimited Bladeworks、…のように3部構成にして26話×3部=78話構成の方が…と考えるのはあくまで理想で、実際に作る側としては受け入れられるかわからないのでは、二の足を踏むだろう。


原作のストーリーラインをなぞりながら、それの縮小版でやるのならば、原作がそもそも一本道シナリオでなければエロゲのアニメ化は極めて難しいことなのだ。
その点、最近ライトノベルのアニメ化が行われているのは、エロゲなど複数シナリオがあるものと比べ、一本道の物語のために再構成しやすく、ラノベ読者はアニメを観ている客層と近似するためアニメ化しやすいという制作者側の判断があるからなのではと思われる。


また、本設定を使い、新たに脚本を起こした方が面白いこともあるという例として、テレビ版攻殻機動隊が挙げられる。攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXは一応は原作をベースにしながら、物語をオリジナルにすることで大変面白い作品になった。ある意味割り切りが成功した例といえるだろう。(公安九課という存在が、様々な話を放り込みやすいという利点はあっただろうけれど。)

まとまっていないまとめ

うたわれるもののアニメはおもしろい。上手くやっていると思う。
・人気があるからって、一本道シナリオではない原作のアニメ化って難しいのではないか。その人気故に批判も強いのではと思う。
・一本道シナリオでも原作の情報量が膨大だとアニメ化は難しいのではないか。
・最近のライトノベルのアニメ化は、アニメ化しやすい要因が多いからではないか。